障害当事者にとっての着やすい服はサステナブル。東京都主催のファッションコンクール「NFDT」でワークショップが開催

東京都では「Next Fashion Designer of Tokyo 2026 (ネクスト ファッション デザイナー オブ トウキョウ 2026)/NFDT」と、着物の生地などを活用した「Sustainable Fashion Design Award 2026 (サステナブル ファッション デザイン アワード 2026)/SFDA」を開催しています。NFDTでは、障害のある方も含めて誰もが楽しめる服を生み出す「インクルーシブデザイン部門」があります。9月24日には一次審査通過者を対象としたワークショップが行われました。
インクルーシブデザインとは?
都内在住又は在学の学生を対象とした本コンクール。この日のワークショップではパラアイスホッケー銀メダリストで一般社団法人障害攻略課代表の上原大祐さんと一般社団法人mogmog engine代表で福山型筋ジストロフィーの娘さんを育てる加藤さくらさんが特別アドバイザーとして登壇。まずはインクルーシブデザインの事例を紹介しました。
インクルーシブデザインとは、これまでのデザインでは使いにくいとされてきた人でも使いやすくしたデザインのこと。よく混同されがちなものにユニバーサルデザインがありますが、ユニバーサルデザインの中には当事者不在で作られ、作り手が「こういうのっていいよね」というイメージだけで作っている物も多いそう。これをリアルな当事者と一緒に作ることによってインクルーシブデザインが生まれると上原さんは説明しました。
事例としては障がい者とその家族が主体となった一般社団法人障害攻略課の協力のもと、障がい者一人ひとりの声にこたえる6アイテムを制作した041プロジェクトを紹介。上原さんは従来の車椅子ごと被れるレインコートが着づらかったため、自分で着やすいものを作りました。車椅子ユーザーもそうではない人も着られる仕様になっています。
加藤さんは娘さんが全身の筋肉が弱く、よだれが出やすいためにスタイにもなるエプロンドレスを制作。赤ちゃん用のよだれかけは「かわいそう」と見られてしまっていたことから、洋服にフィットする、よだれかけに見えないよだれかけをオーダーしたそうです。速乾性があって着替えなくていい、リーチが長い、寝た状態でも着られる、下の洋服に響かない防水性などの配慮があるデザインにしてもらった。エプロンやチュニックとしても着やすいので健常者も着やすいことが特徴です。
着やすい服はずっと大切に着るサステナブルな視点
障害のある方は自分自身での着脱はもちろん、介助者の着させやすさも考慮して服選びをしないといけません。「着脱しやすい服、しにくい服。可動域や伸縮性、生地、ボタンの位置などデザインで解決できることはたくさんあります」と、普段から娘さんの洋服の着脱をしている加藤さんが解説していました。
当日は障害を持つ当事者の方々もワークショップに参加。先天性の視覚障害を持つ方は普段の洋服選びの困難を当事者目線で話してくれました。視覚障害があるためにデザインが自分でわからないので誰かと一緒に選んでもらうため、自分でも触ってわかりやすいデザインがあると嬉しいそうです。
また事故の後に車椅子生活になった方は、今まで着ていた服が着られなくなった大変さを吐露。「そもそも試着室に入れないので試着があまりできない問題もあり、着られる服や履ける靴が限られてしまいました。そのため伸縮性があって着やすい物はずっとリピートしています」と自分が着やすい服はずっと大切に着るサステナブルな視点も語ります。
1つのお気に入りアイテムから選択肢が広がる
このほかにも障害当事者の話では、洋服の選択肢が少ないため、着心地がよくて気に入った洋服があればずっとその洋服を選ぶという共通点が。お気に入りで着やすいアイテムがひとつあれば、そのお気に入りアイテムを起点に他にインナーなどの組み合わせを楽しむことができるという選択肢が広がるそうです。
ワークショップでは二次審査に臨む学生デザイナーが、応募作品(デザイン画)を持参。障害当事者に自身のデザインについて意見をもらったり、当事者だからこそ伝えられる具体的なアドバイスを受けたりする姿が見られました。本コンクールはデザイン画による一次審査を経て、ワークショップ、制作したルックによる二次審査、ビジネス体験の後、2026年3月にショー形式の最終審査が予定されています。今回のコンクールを経て学生デザイナーたちの作ったデザインが、障害当事者たちにとっての“一生モノの服”として誕生するかもしれません。