脳梗塞発症後4.5時間以内投与の課題も克服。新薬候補「TMS-007」、脳梗塞患者を救う希望となるか

世界中で罹患者の多い脳梗塞。日本では年間発症者が31万人、死亡者は5.6万人にのぼるとも言われています。そんな脳梗塞の予防策や知られていない治療薬、さらには創薬ベンチャーである株式会社ティムスが、現在開発中だという脳梗塞治療薬候補「TMS-007」についても紹介します。
知っているようで知らない脳梗塞の怖さ
そもそも「脳梗塞」は「脳卒中」(「脳出血」や「くも膜下出血」なども含んだ総称)の一種。脳の血管が詰まって、血液供給が滞り、脳の神経細胞に十分な酸素や栄養がいきわたらなくなる病気です。世界の死亡原因第2位、日本では第4位となっており、寝たきりとなる原因第1位、認知症の原因としても第2位となっています。
発症後は早急に血栓を除去し、神経細胞の壊死を最小限にとどめる必要があります。しかし治療薬を投与して死を免れたとしても、生存者は片麻痺や言語障害、記憶障害など様々な後遺症に苦しむことが少なくありません。本人はもちろん、家族や医療経済に大きな負担となっていることが社会問題にもなっています。
10月29日の世界脳卒中デーに合わせて行われた調査によると、28.1%の人が脳梗塞を死亡に繋がる可能性が低い」と認識していることがわかりました。脳梗塞の危険性について十分に理解されているとは言えない状況が明らかに。なぜなら脳梗塞治療薬は2025年時点で、先進各国で共通に承認されている治療薬「t-PA」の1種類のみ。これは血栓を溶かす機能を持つものの、脳出血を起こすリスクもあります。また発症後4.5時間以内の投与という厳しい時間制限もあるそう。そのため唯一の治療薬にも関わらず、脳梗塞患者全体の10%未満にしか使われていないと考えられています。
年齢を問わず発症リスクが!脳梗塞を防ぐために必要なことは?
こうした現状から脳梗塞は発症を防ぐことが何よりも大切と言われています。
血圧、コレステロール、飲酒などの複数の因子によって引き起こされる血管の病気である脳梗塞。
中高年以上が発症するイメージがありますが、年齢に関わらず、血管の状態によっては発症する可能性が十分にあるのです。
具体的な予防策としてはまずは定期的な健康診断が挙げられます。
診断結果をきちんと受け止め、行動に移すことが何よりも重要です。また過度の飲酒を控え、禁煙、肥満予防、適度な運動などの日常生活の習慣も大切。またストレスを溜め込むことも間接的なリスク要因になりうるため避けたいところ。自分ならではのストレスを逃がす方法を習得することが大切になってくるでしょう。
睡眠時の状態もチェックしておくことがおすすめです。
異常ないびきや睡眠時無呼吸症候群などは、睡眠時の血圧上昇や心疾患のリスク因子となります。
血栓を溶かしつつ、血流が戻ったときの障害も制御してくれる「TMS-007」
世界中で長年にわたって新しい治療薬が待ち望まれている脳梗塞。こうしたなか日本の創薬ベンチャーである株式会社ティムスが現在臨床試験中の治療薬候補が「TMS-007」です。

特筆すべき特徴は血栓溶解作用(詰まった血栓を溶かす作用)に加えて虚血再灌流障害抑制作用(血流を再開させた際に生じる組織や細胞の損傷を抑える作用)として、血管内皮などの組織細胞の炎症を抑える働きや抗酸化作用があると考えられます。
虚血再灌流障害とは梗塞を起こして一時的に血流が止まった後に再び血流が戻った際に引き起こされる組織細胞の障害。これを制御することで出血リスクを抑えられ、投与時間を延ばすことが可能になると考えられています。
そのため既存薬は「投与は発症後4.5時間以内」という厳しい制限がありますが、「TMS-007」は発症後24時間まで使える可能性があるとのこと。これによって国内の過疎地域だけでなく、海外の途上国など特別な設備がなく、有効な治療を提供できない地域でも脳梗塞患者を救える可能性が出てきました。
現在「TMS-007」は臨床試験段階。新薬の承認までには「第I相臨床試験(Phase I)」、「第II相臨床試験(Phase II)」、「第III相臨床試験(Phase III)」のステージがあり、現在は少数の患者に投与するPhase IIを良好な結果で終え、次の準備をしているそうです。若い人にも発症リスクがある脳梗塞は日々の生活習慣や定期健診による予防がなによりも大切。また脳梗塞治療の新たな希望である「TMS-007」がこれから承認される日が待ち遠しく思います。