なぜ地球環境を保全すべき?なぜ体に良いものを食べるべき?生物学者の福岡伸一さんが生物学的に解説
人と地球にやさしいヤシノミ洗剤を展開しているサラヤ株式会社が2024年5月11日、いのちをつなぐ特別授業を開催。東京・中野にある新渡戸文化学園にて、生物学者の福岡伸一氏を特別講師に迎えて講演「フクオカハカセのセンスオブワンダー」が行われました。
ルドルフ・シェーンハイマーの「生命は機械ではない、生命は流れだ」という言葉
幼少期から昆虫が好きだった福岡氏。昆虫や生物の研究をするために京都大学に入ったものの、細胞を遺伝子レベルで統一的に理解するのが生命科学の唯一の道だと教えられたことから分子生物学の道に進んだそう。
その後、福岡氏は遺伝子操作をしたマウスを使ってGP2の役割を研究。3年ほど実験期間と莫大な実験費をかけましたが、GP2遺伝子を持たないマウスに健康上の問題はなく、子孫にも異常がどこにも表れなかったと振り返ります。
何の研究結果も出てこない壁にぶつかったものの、「生命体を機械だと捉えているから、部品がなくなったら壊れると思っていたけれど、部品がなくてもないなりにやっていけるという柔軟さに生命の本当の姿があると考えなければいけない」と思い直したことを語ります。そしてそのときにルドルフ・シェーンハイマーの「生命は機械ではない、生命は流れだ」という言葉を思い出したのだとか。
「それまで生命現象を機械のアナロジーとして理解していた科学者たちは、生物と食べ物は車とガソリンのような関係だと考えていましたが、シェーンハイマーはインプットとアウトプットの収支がきちんと合っているか証明したいと考えました。すると生物が食べた食べ物はエネルギーとして消費されるだけでなく、身体の細胞と一体化して、同時に不要な細胞は体外に排出されていました。これはつまり、生物は分解と合成を繰り返し、絶えず細胞が入れ替わっている。極端に言うと今の自分は1年前の自分から分子レベルですべて入れ替わっているのです」(福岡氏)
私たちの身体は常に入れ替わっているからこそ、身体にいい物を食べ続けなければいけない
人間の身体の中で一番早く交換されるのは消化管の細胞で、2~3日で入れ替わっています。骨や歯、他の臓器もスピードは違えど絶えず入れ替わっており、生物はその流れを止めないために食べ物を食べ続けているそうです。
「私たちの個体は固体というより流体に近い。この入れ替わりのサイクルにとっての異物が入るとバランスが乱されてしまいます。だから自然界の他の生物の体をまるごと食べるのが最も身体にとって良い。加工したり成分を変更したり添加物を入れたりすると身体の動的平衡を乱すということになってしまうのです」(福岡氏)
常に私たちの身体が作り替えられていることに着目すると「動的平衡」という考え方に行きついた。それは人間の在り方であり地球環境の流れだそうです。生物も地球も、絶えず動きながらバランスを取り直す「動的平衡」を保つことで維持されるんだとか。
「動的平衡という考え方は生命の進化にも適応されます。なぜ生命は自分自身を壊し続けて作り続けなければいけないのか。機械のように最初から頑丈に作られているのではなく、生命は絶えず壊しながら作り変えている。それは生命が『エントロピー増大の法則』に抗っているから。自らを率先して分解し、同時に作り直すことによって、なんとか秩序を維持しようとしているんです」(福岡氏)
単一の生物だけが生存する地球であれば、この動的平衡は保つことができないでしょう。多様な生物が地球に存在して地球の循環を機能させることが大事。地球も私たち人間の身体も、絶えず動きながらバランスを取り続けていくことで健やかに維持されていくのだと福岡氏の話を聞いて納得しました。
8月には福岡氏と一緒に環境問題や生物多様性を学ぶ学習ツアーを開催
2024年8月16日から8月22日までは「フクオカハカセと行くボルネオ学習ツアー」が開催されることも決定。マレーシアのボルネオ島の森林に生息する希少な野生動物や昆虫と出会って生物多様性の大切さを学んだりパーム油(アブラヤシ)の農園を見学したりと、環境問題や生物多様性、生命について深く学ぶことができる貴重な機会です。2024年6月10日までボルネオ学習ツアーに参加する中学生・高校生を募集中。詳細はいのちをつなぐ学校特設サイトまで。
- いのちをつなぐ学校 https://connecting-lives-school.jp/