減塩のメリットとは?デメリットは?
私たち日本人は日常の食生活で、しょうゆやみそ、漬物などと毎日のように接しています。加工食品に含まれる塩分も含めると、知らず知らずの間に塩分を摂り過ぎているというのが現状です。一方、減塩のメリットだけでなく、デメリットに関する情報も流れていて、どうすればよいのか戸惑いそうですね。そこで、日本人の塩分摂取の状況と世界の動きをまとめてみました。
日本を含むアジアでは食塩の多量摂取が死亡に大きく影響
厚生労働省の「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」(2021年2月~6月開催)では、日本人の健康のためには減塩が不可欠という結論の下、食品業界に減塩の取り組みを求める報告書を取りまとめました。議論に用いられたデータを紹介しながら、まずは減塩のメリットについて見ていきましょう。
非感染症疾患(がん、心疾患、脳血管疾患など)による死亡と食事との関連を調べた研究(195カ国を対象)によると、特に食塩の多量摂取と、全粒穀類・果物の摂取不足が死亡の主なリスク要因であることが判明しました。
世界の多くの地域では、全粒穀類の摂取不足が死亡に最も影響を与えているのに対し、日本を含むアジアの高所得国では、食塩の多量摂取による影響が最も大きいことがわかりました。
死亡した96万人のうち3.4万人が食塩の多量摂取と関連
もう少し詳しく見てみましょう。日本人の死因の50%以上は、がん、心疾患、脳血管疾患など。これらの病気のリスク要因は「喫煙」「高血圧」の順に高いのですが、食事によるものとしては食塩の多量摂取が最も高く、研究の対象とした死亡者約96万人のうち3万4000人が関係していました。
日本人は1日に約10gの食塩を摂取
では、日本人の食塩摂取量はどうでしょうか。国民健康・栄養調査によると、1日あたりの平均は約10g。米国の9g、イギリスやカナダの約8.5g、オーストラリアの約6gなど、海外諸国と比べて多いことがうかがえます。
海外諸国で減塩による顕著な効果
日本よりも食塩摂取量が少ない海外諸国でも、いっそうの減塩を推進しています。イギリスでは高血圧が問題となっていることから、2003年から国民運動として減塩活動を展開。パンやシリアルといった加工食品85品目の食塩含有量を40%低減するという目標を設定し、取り組んだ結果、2011年までの8年間で、虚血性心疾患と脳卒中による10万人あたりの死亡者数が40%減少しました。
もともと食塩摂取量が多かったアルゼンチンでは、食品企業やベーカリー、レストランと2011年に合意し、食塩削減の法律を制定。2011年から15年までの4年間で、食塩摂取量は11.2gから9.2gに減少。これにより、4040人の死亡を回避できたと推定しています。
また、WHO(世界保健機関)は食塩摂取量について1日「5g」未満を推奨。日本人はちょうど、この2倍の量を摂取しているわけですね。
減塩の大きなメリットとして、血圧の低下が挙げられます。ここまで見てきたように、血圧の低下は、心血管疾患や脳卒中などの生活習慣病のリスク低下につながります。
食塩の摂取不足はどうか?
健康のために減塩が叫ばれるなか、減塩のしすぎは健康に悪影響を与えるという主張も聞かれます。これは2013年に米国の研究機関が、食塩摂取量を基準以下にすることについて疾病リスクを低下させる根拠は乏しく、むしろ行き過ぎた減塩は健康に悪影響を与える可能性があると報告したことが発端とみられています。
食塩の摂り過ぎが生活習慣病の原因になることは明らかにされていますが、その一方で、減塩をめぐっては、摂取量が少ないほど死亡リスクが低下するという説もあれば、少なすぎると逆効果という説もあるなど、学術界でも意見が分かれています。
体液の浸透圧を維持する塩分の不足
浸透圧の維持で最も大事なのは塩分で、体液の浸透圧が低いと水分は尿中へ排泄され、血液と体液は不足します。塩分が不足して血液が減ると、心臓や脳などの重要な臓器の血流維持のために、手足の血管が締まって手足が冷えることもあります。
ナトリウムは塩の副成分であるカリウムと協力して、細胞外液の浸透圧を維持し血圧を調節しています。なぜ、無数に存在する細胞が正常性を保てているかというと、このナトリウムの働きがあるためです。
さらに、ナトリウムは筋肉の収縮や神経の情報伝達、小腸での栄養吸収などにも関わり、全身の幅広い機能をサポートしています。
一方、塩素は胃酸をつくる成分で、おもな役割は食べ物の消化・殺菌です。
塩分不足が引き起こすおもな症状とは?|サントリーウエルネスオンライン
ナトリウム(塩分)とカリウムは体内でお互いバランスをとりあっているミネラルですが、もし余分にナトリウム(塩分)をとりすぎた場合でもカリウムを同時に食べると余分な塩分を体外へ排泄してくれます。
塩分不足が原因で現れる症状には、疲労感、食欲不振、血液濃縮、頭痛、筋肉のけいれんなどが挙げられます。
ただし、日本人の一般的な食事で、健康に悪影響が出るほど食塩摂取量が不足することはありません。大量の発汗や激しい下痢などの場合を除いて、心配する必要はないと言えるでしょう。
あと2g減少の努力を!
厚労省の「健康日本21」によると、日本人の食塩摂取量の目標値は「8g」と設定されています。WHOの推奨量「5g」未満は、しょうゆやみそ、漬物、ラーメン好きの食文化を踏まえると、すぐに実現しそうにありませんが、やはり現状の約10gは世界的に見ても摂り過ぎです。あと2gほど減塩する必要があると言えそうです。