食品に含まれる放射性物質とは?風評被害が起こるのはどうして?
2011年3月11日に発生した東日本大震災。それに伴う福島第一原発の事故によって放出した放射性物質の影響で、「福島県産農産物は危険」という風評被害が生じました。風評被害を出さないために、私たちは食品の安全性とどのように向き合うべきでしょうか?
今も続く福島県産農産物をめぐる風評被害
消費者庁が2022年3月に公表した「風評被害に関する消費者意識の実態調査(第15回)」によると、放射性物質を理由に購入をためらう産地に、「福島県」を挙げた人の割合は6.5%。産地を気にする理由として、「放射性物質の含まれていない食品を買いたいから」と回答した人も1割強を占めています。
事故発生から10年以上経過しましたが、今も福島県産農産物を敬遠する消費者が一定割合いる様子がうかがえます。
日頃口にする野菜や米も天然の放射性物質を含有
まず、私たちが日頃口にする食品には、天然の放射性物質が含まれていることを押さえておきましょう。代表的なのは「カリウム40」という放射性物質です。
カリウムはミネラルの1種で、私たちが健康を維持する上で必要な栄養素。そのほとんどは放射線を出しませんが、放射性物質であるカリウム40も0.01%程度含まれていて、ベータ線とガンマ線を放出します。
野菜・肉・魚には1㎏あたりに100~200ベクレル、穀類には30ベクレル程度が含まれています(ベクレル:放射線を出す能力の強さを表す単位)。
例えば、ホウレンソウは1㎏あたりに200ベクレル、キャベツは70ベクレル、牛乳は50ベクレル、食パンや米は30ベクレルなど。
どの地域で生産された食品であっても、わずかながら天然の放射性物質を含んでいるわけです。
「年間1ミリシーベルト以下」ならば食べ続けても安全
放射線による人体への影響の大きさを表す単位「シーベルト」で見ると、日本の場合、食品に含まれる天然の放射性物質による被ばく量は、平均で年間0.41ミリシーベルトです。
では、原発事故の発生以降に、食品から摂る放射性物質の量は、どのくらい増えたのでしょうか?
原発事故が発生の影響はわずかな量?!
原発事故が発生した2011年の秋に厚生労働省が行った調査によると、0.003ミリシーベルト(東京)~0.02ミリシーベルト(福島)の増加と推計されています。もともと食品に含まれる天然の放射性物質の0.41ミリシーベルトと比べて、わずかな量であることがわかります。
国連のコーデックス委員会では、食品から受ける線量の上限を「年間1ミリシーベルト」と規定。日本も同水準の基準を導入し、「年間1ミリシーベルト以下」ならば、食べ続けても安全としています。
天然の放射性物質も人工的な放射性物質も同じ
ここで頭に浮かぶのが、天然の放射性物質と原発事故で放出された放射性物質とでは、健康への影響も違ってくるのではないか、という疑問。
しかし、もともと食品に含まれている天然の放射性物質であっても、人工的な放射性物質であっても、私たちの健康に影響を与える仕組みは同じ。同じ線量ならば、健康への影響も変わりません。
科学的な考え方とデータに向き合おう!
科学的な考え方やデータを踏まえると、「福島県産農産物は危険」という話がデマであることがはっきりします。残念ながら、そうしたデマを信じてしまう消費者が一定数いるのは、科学やデータと向き合えていないからだと考えられます。
放射性物質に限らず、農薬も食品添加物についても同じことが言えます。摂取量が問題であり、基準を下回れば健康に悪影響を与えず、安心して口にできます。
デマに振り回されず、食品の安全性を的確に判断するためには、科学的な考え方とデータの重視がポイントとなります。