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COVID-19とゴースト血管〜前編〜

カラダ
YOKARE編集部
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COVID-19とゴースト血管〜前編〜

新型コロナウイルス、正式な病名COVID-19。
未だに収束の目処が立たない中、私たちは日頃からどのような予防ができるのだろうか。10月に行われた「Tie2・リンパ・血管研究会 第6回学術集会」でも新型コロナウイルスと血管の関係がテーマとして取り上げられた。今回は、「Tie2・リンパ・血管研究会 第6回学術集会」に登壇された大阪大学 微生物病研究所 情報伝達分野教授の高倉伸幸先生の解説を交えて紹介していきたい。

新型コロナウイルスの重症化を防ぐには

現在のところワクチンや治療薬の早急な開発は進められているが、未だこれといったワクチンなどがないのが現状である。
そんな中、自分たちでどのような予防ができるのだろうか。COVID-19の研究を行なっている高倉先生は次のように話す。
「今私たちができることは感染予防と重症化の抑制であり、なんとか私たちは独自にやっていかなければならない。」(高倉先生)

予防においては、メディアでも何度も取り上げられているように「social distance」「手洗い」「うがい」といったことが重要である。

また、高倉先生は例え感染しても重症化しないようにすれば、この感染症はそれほど怖いものではないと考えているという。しかし、まだ新型コロナウイルスが確認されてから1年も経っていない今、それを科学的に立証し、根拠を持って発言するとは難しいのは事実である。

新型コロナウイルスの重症化は、他の感染症と同様に、サイトカインストームや血管透過性の亢進、血栓症といったSIRS(全身性炎症反応症候群)と同様であることがわかってきている。SIRS(全身性炎症反応症候群)とは、感染などの侵襲に対する生体の防御反応であり、免疫細胞から大量に放出された炎症性サイトカインによる全身性の急性炎症反応のこと。例えば、外傷や熱傷、手術および感染などの侵襲を受けた局所に免疫細胞からサイトカインが放出され、それが血中に吸収されて全身を循環し、全身的な炎症反応を引き起こしている状態になること。サイトカインの増加により組織の酸素代謝がうまくいなくなり、最終的に多臓器不全になり、死にいたることもある。

コロナウイルスは7種類

人が感染するコロナウイルスは、新型コロナウイルスが流行る前までも6種類が存在していた。そのうち4種類は一般的な風邪の原因となるウイルスでほとんどの人が6歳までに感染する。今回の新型コロナウイルは、人に感染するコロナウイルスとしては7種類目。SARS ウイルス(SARS-CoV)と似ていることから、SARS-CoV-2(サーズ・コブ・ツー)と名付けられている。

HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1
一般的な風邪の原因となるコロナウイルス
ほとんどの人が6歳までに感染する。世界中で確認されている。
SARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルス 2002年11月に中国南部広東省で最初の感染者が確認された。2003年8月まで大流行。
MERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルス  英国で2012年、中東に渡航歴のある患者からウイルスを発見。
新型コロナウイルスSARS-CoV-2  2019年中国湖北省武漢市で感染症を確認。世界的な大流行。

新型コロナウイルスの構造

新型コロナウイルスはスパイクと呼ばれる突起を持っている。このスパイクを人の細胞にくっつけて侵入してくるのが特徴である。一般的な細胞は自分で分裂して増えていくことができるが、新型コロナウイルスは自分だけでは増殖できない。


「新型コロナウイルスが増えるには人の細胞の中に入り込んで、細胞の持っている遺伝子からたんぱく質を作り出す。そのように体内で増殖していこうとする。このようなウイルスは皮膚についただけでは感染せず、口や鼻、粘膜から感染する。特に呼吸器の上皮細胞に侵入していく。手洗い、消毒、身の回りの手を触れる場所の消毒で感染はある程度抑えられる。」(高倉先生)

さらに、私たちには免疫力があり、免疫細胞がウイルスに感染した細胞を殺すことでウイルスの増殖を止めることはできるはずだ。

しかし、なぜ新型コロナウイルは重症化に繋がるのだろうか。

「ウイルスで傷ついた細胞、死んだ細胞を感知すると免疫が作動し、排除しようとします。その際に炎症反応は起きるので発熱や炎症を起こってくるが、この反応が過度に起こってしまうことがある。それを“サイトカインストーン”という。サイトカインストーンの発生により重症化してしまう。」(高倉先生)

コロナウイルス感染で重症化しやすい人は、ウイルスを減退する免疫の働きが低下している人、具体的には高齢者や、抗がん剤・免疫抑制剤を投与している人が挙げられる。統計的には高血圧や糖尿病などの基礎疾患のある人も、ウイルスによって引き起こされる炎症がひどくなりやすい傾向がある。

COVID-19と血管の関係とは

スイスで、新型コロナウイルスに感染し重症化した人の血管を病理的に研究した論文が発表された。論文では。血管内皮細胞の中にびっしりとCOVID-19のウイルスが増殖している画像が見られる。重症化するメカニズムとしては血管内皮細胞が感染することがわかってきた。

「通常、COVID-19は血流を素通りする。しかし、血管が障害を受けていると血管内皮細胞にACE2が発現する。そのACE2をターゲットにして新型コロナウイルスが侵入し、どんどん炎症が広がっていく。」(高倉先生)

本来、ACE2は血管修復を促す働きがあり、ゴースト血管化してきた血管を修復しようとしている際にウイルスに狙われることになる。

COVID-19のターゲットとは

高齢者や持病がある人が新型コロナウイルスに対して脆弱であることがわかった。また、新型コロナウイルスは全身の血管に感染するため、血管が弱っている重篤化する可能性が高まるという。
「重症化の予防のポイントとしては血管の健康を保つには劣悪な生活をしないこと。生活習慣病を予防することが重要である。そこで私たち研究会は、血管のゴースト化が血管の劣化の大きな原因として取り上げてきています。このゴースト化を予防していくことが非常に重要だと考えています。さらに今までも様々なウイルス感染において、このTie2受容体の活性化の効果があると話をしてきました。この新型コロナウイルスにおいてもTie2受容体の活性化による血管構造の安定が重症化予防に意味があるのではないかと考え、推奨していきたい。」(高倉先生)

取材協力

高倉伸幸 大阪大学 微生物病研究所教授

医学博士。三重大学医学部卒業後、京都大学大学院医学研究科博士課程修了。2001年、金沢大学がん研究所教授に着任。2006年より現職。2014年より2018年まで日本血管生物医学会の理事長を務める。専門は血管形成、幹細胞など、血管治療に対する薬剤開発や生活習慣病やがん治療に役に立つような研究に従事している。

Tie2・リンパ・血管研究会

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