トクホ制度改正の行方、トクホは復活するか?
バンザイをしているようなデザインのマークで知られる特定保健用食品(トクホ)。きっとあなたも「お腹の調子を整える」といったキャッチフレーズを耳にしたことがあると思います。トクホ制度は、かつて「世界の最先端を行く制度」として脚光を浴びました。しかし、2015年にスタートした機能性表示食品制度に、健康食品の主役を奪われることに。トクホ制度をテコ入れしようと国は躍起ですが、復活できるのでしょうか。
世界から注目されたトクホ制度
トクホ制度は1991年にスタート。「お腹の調子を整える」「血圧が高めの方に」「血糖値が高めの方に」などの表示が可能となり、先進諸国からも注目されました。一方、健康食品業界では「トクホは許可を得るためにお金も時間もかかりすぎる」という不満が募っていました。
そうした声を受けて、当時トクホ制度を所管していた厚生労働省は2005年に制度を改正。「疾病リスク低減トクホ」「規格基準型トクホ」「条件付きトクホ」という3つの仕組みを追加したのです。一定の効果は見られましたが、事業者の不満を解消するまでには至りませんでした。
機能性表示食品に主役の座を奪われる
業界内に不満はあったものの、トクホ市場は拡大を続けました。(公財)日本健康・栄養食品協会の調査によると、1997年に1,315億円だった市場規模は、2007年に6,798億円となりピークを迎えます。2013年から直近までは6,000億円台をキープしています。
市場規模は横ばいで推移しているものの、トクホの許可件数は2016年から減少傾向が顕著となっています。2016年は95件でしたが、17年には45件に半減。18年38件、19年32件と減少が続いています。
これは、機能性表示食品制度の登場が影響したため。機能性表示食品制度は国の許可が不要で、届出によって機能性を表示できます。このため、トクホと比べて費用も時間もケタ違いに少なくて済みます。
2021年5月1日現在のトクホ許可件数は合計1,072件。これに対し、機能性表示食品の届出件数は合計4,001件。制度の歴史の長さはトクホが30年、機能性表示食品はわずか6年ですが、件数は4倍弱の開きがあります。ここ数年で、各企業の戦略はトクホから機能性表示食品へシフトしている様子がうかがえます。
トクホ復活へ打ち出した施策とは?
現在、トクホ制度も機能性表示食品制度も消費者庁が所管しています。消費者庁では衰退が著しいトクホ制度をテコ入れする方針。その秘策として打ち出したのが、「疾病リスク低減トクホ」の拡充です。
「疾病リスク低減トクホ」は、特定の病気に罹患するリスクを抑える効果を表示できます。現在は「カルシウムと骨粗しょう症」「葉酸と神経管閉鎖障害」の2つがあります。
なぜ、トクホ制度の復活に向けて、「疾病リスク低減トクホ」に焦点を当てたのでしょうか。それは、企業責任に基づく機能性表示食品制度では「永遠に疾病名をうたうことは困難」と言われ、トクホ制度にしか認められていないからです。機能性表示食品との違いを強調するために、都合が良かったわけですね。
制度改正に向けて消費者庁は2020年12月~21年3月、検討会を開いて議論しました。しかし、検討会は失敗に終わりました。
「疾病リスク低減トクホ」の表示を増やすために、消費者庁は前述した2種類以外に、「ビタミンDと転倒」「カルシウム、ビタミンDと骨粗しょう症」の追加を提案。これに対し、多くの委員が反対に回ったのです。
なぜ、反対したのでしょうか。最大の理由は、ビタミンDの過剰摂取による健康被害を招く恐れがあるからです。脂溶性のビタミンDは摂取すると、体内に蓄積されます。このため、栄養政策を所管する厚生労働省ではビタミンの過剰摂取を警戒しています。
つまり、国民の健康を守る栄養政策と、産業振興が狙いであるトクホ制度の拡充策の間で、矛盾が生じてしまうという批判が寄せられたわけです。
最終的に検討会で合意できたのは、すでにトクホで認められている「虫歯の原因にならない甘味料を使用」という間接的な表現を「虫歯のリスクを低減」という直接的な表現に変更することなど。まったくと言っていいくらいインパクトのない改正内容となりました。
トクホ制度全般の見直しへ
検討会は失敗に終わったものの、トクホ制度をテコ入れするために、検討結果の取りまとめとして、トクホ全般の改正を検討する方向性を提言しました。制度全般が大きく見直されることになれば、消費者にも業界にも大きなインパクトをもたらすことでしょう。
気になるのは、トクホ制度全般の改正の行方。検討会の提言を受けて消費者庁は数年以内に、改正に着手する方針を示しています。
具体的には2022年度以降に着手する計画。今後の検討で必要となる基礎データの収集に乗り出し、トクホ制度全般の見直しを進めていくことになります。
今のところ詳細は白紙の状況ですが、トクホ制度を復活させる場合、機能性表示食品に見劣りしないような表示内容のバラエティー化は避けられないでしょう。業界の“トクホ離れ”の原因である許可までにかかる費用・時間をどのようにして圧縮するか、という観点もポイントになる可能性があります。
また、商品を選ぶのは消費者であることから、消費者に向けてトクホ制度のメリットを啓発する手法の検討も課題となりそうです。
トクホ制度の抜本的な見直しは、業界だけでなく、消費者にとっても商品選択の幅が広がるなどのメリットがあります。トクホを愛用している方にとってはなおさらですね。今後のトクホ制度全般の改正に期待しましょう。