歯ブラシだけでは歯周病が悪化する可能性も!歯周病の組織再生療法「リグロス」とは?
国と日本歯科医師会は「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という目標を掲げた運動「8020運動」を推進しています。一生涯を通して20本以上の自分の歯があれば、ずっとご飯を美味しく食べることができ、健康寿命を延ばすことができるからです。 しかし日本では予防歯科の概念が一般的にはまだまだ広がりきっておらず、80歳まで自分の歯を20本残すことが難しくなっています。そこで今回はDUOデンタルクリニックの大月基弘先生に、予防歯科の重要性や歯を失うリスクの高い歯周病について聞きました。
予防歯科先進国スウェーデンと比べると歯の本数が大きく違う
歯科の受診率が他の先進国と比べても低いと言われる日本。その背景には保険制度の充実という側面があります。治療費が諸外国先進国と比べても極端に低いため、「歯が痛くなってから歯医者に行こう」「「調子がいいから定期健診に行かなくてもいい」「オーラルケアは面倒だからしない」といった行動になりがちなんだそうです。大月先生によると「どこにでも歯科があるので行こうと思えばいつでも行ける状況もその理由の一つ」なのだそう。
しかし20本以上歯がある人は医科の治療費が少なく、その傾向は年齢が低いほど顕著になります。つまり歯が少ないほど医療費が高いことがデータでも明らかになっているのです。そのため国は2022年に「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」を閣議決定しました。この基本方針により、生涯にわたって一人ひとりの歯科検診強化実現に向かうことがハッキリと文章化されました。
実際に日本人の口腔環境の悪さは諸外国と比べても顕著です。歯科予防先進国のスウェーデンと日本とで80歳を超えたときの歯の残存率を比較すると、その差は歴然。80歳~84歳では男性が15.1本、女性が15.5本という日本に比べてスウェーデンは80歳~89歳では男性が19.2本、女性が19.23本。これらはあくまで平均的な本数ではあります。しかし高齢者になったときに自分の歯がどのくらい残っているのかは、若いうちからの予防歯科が大きな鍵を握っていることは明らかではないでしょうか。
セルフチェックで確認してみよう!特に35歳以上が注意したい歯周病
大月先生が特に危惧しているのは歯周病の問題です。歯周病はギネスワールドレコード2001に「全世界で最も蔓延している病気」とも言われるほど罹患していない人のほうが珍しいとも言われています。実際に日本人においては35歳を過ぎた頃から歯周病患者は増え、40歳を過ぎれば8割は歯周病になっているとも言われるほど。歯を失う原因の第1位は虫歯ではなく歯周病であることもわかっています。
そもそも歯肉炎と歯周炎に分かれる歯周病ですが、歯肉炎はプラーク(歯垢)が付着して歯肉のみが炎症し、歯茎が腫れている状態を指します。しかし歯肉炎が悪化すると歯肉上皮や歯根膜が剥がれて歯槽骨が溶けてしまうため、歯を支える組織が失われていく状態に。歯茎も痩せて骨もなくなるため、歯がぐらぐらして食べ物を食べられなくなってしまいます。つまり歯肉炎の状態で食い止めて歯周炎にまで至らないことが重要です。
大月先生に自分で簡単にできる歯周病のセルフチェックを教えてもらいました。 ・朝起きたときに口の中がネバネバする ・ブラッシング時に出血する ・口臭が気になる ・歯茎がむずがゆい、痛い ・歯茎が赤く腫れている ・歯が長くなったような気がする ・歯と歯の間に隙間があり、食べ物が挟まる ・歯がぐらぐらと動く これらに一つでも当てはまっている場合には歯周病の可能性があります。不安を感じたらまずはかかりつけの歯科に相談に行ってみてはいかがでしょうか。
歯周病予防は患者の意識が8割
「歯周病は治る病気なので、できるだけ歯を残した適切な治療をしてQOLを高めることは可能」と語る大月先生。歯周病予防で最も大事なことはプラークコントロールなんだそうです。
そもそもプラークがいなければ基本的に歯周病にならないといいます。「毎日歯ブラシをしているから大丈夫」ということではないのが注意点。そもそも歯ブラシだけで取れるプラークは最高で60%程度です。歯と歯の間に歯ブラシはなかなか届かないため、その磨き残しから歯周病になるケースがとても多いよう。毎日の歯ブラシに加えて、歯間ブラシやフロス、タフトブラシを使うことを推奨していました。
また歯周病にならないために歯科医院への定期的な通院のほか、「歯周病かも?」と思ったら放置はせずに歯科医院で適切な治療を受けることも重要です。 歯科医院では適切な検査をした後、歯科衛生士による歯ブラシや習慣などの口腔衛生指導、歯石除去や歯の周囲のプラーク除去、歯茎の下の歯周病ポケット内のプラーク除去などを受けることができ、重症であれば医師から歯周外科治療を施してもらえるそう。
「歯周病の予防や治療のためには、患者さん本人の意識が8割を担っているほど非常に重要です。適切な毎日のセルフケア(1日の2~3回の歯ブラシ習慣)、歯間部の清掃(歯間ブラシやフロス)、マウスリンスの使用、歯科医院への定期的な通院を心がけてください」と大月先生は念を押していました。
歯周組織再生療法「リグロス」とは?
大月先生は最後に、最新の歯周組織再生療法「リグロス」について説明しました。リグロスは歯周病の重症患者に使われるもので、歯周病で破壊された歯周組織の周囲にある細胞を増やし、さらに血管を作って細胞に栄養を送り込む療法。これらの作用によって歯槽骨などの歯周組織が再生されるといいます。
リグロスは従来の歯周外科治療に塗布するだけという手軽さも魅力です。歯肉を切開して剥離したら、プラークや歯石を除去し、歯槽骨の欠損部にリグロスを塗布。最後に切開創を縫合すれば完了です。上手な歯周病専門医に治療してもらえれば治りの良さや痛みのなさ、さらには歯が以前よりも良い状態になることが期待されます。
大月先生は「歯周病は症状がありません。歯茎から血がついていると『磨きが甘いだけかな』と油断しがちです。『何も感じていないのに歯医者に行っていいのか』、『何も悪いところがないのだから歯医者さんに迷惑がられないか』と思う方も多いですが、歯周病とは普段は痛くもなんともない怖さがあります。噛んで痛かったり腫れたりしているのはすでに重症です。重症になると歯を失うリスクや大きな治療を行う負担なども伴います。症状がないからこそ若いうちからケアをしておき、気軽な定期通院によってしっかりと診てもらうことが大事になってきます」と語りました。