スマホ依存症が身体に与える影響
厳しい仕事の中で、電車でも歩行中もメールやチャットをチェックしてしまうことも、一度習慣になると抜け出せないものです。すぐに返信することが、責任感などさまざまな事情で習慣化してしまい、本来は大切にしていた価値観を見失ってしまうことも。
自由な休憩時間は、何に使っていたのだっけ？と振り返ると、読書したり、映画を観たり、友達とおしゃべりしたり、ボーッとしたり。仕事でもプライベートでも良いアイディアは、この自由な瞬間に生まれるのではないでしょうか。
しかし、スマホに多くの時間を割き、常に右手にスマホを握りしている――この不自然な光景や習慣に対して、そこまで問題視されていないようにも見受けられます。
臨床ソーシャルワーカーの資格を持つコリアーさんは、「デジタル依存症と他の依存症の唯一の違いは、これが社会的に容認されている行為であるということだ」と語った。
この記事では、これまで行われた研究の洞察から「スマホが与える影響」を紹介します。
スマホ依存がうつ病に関与しているのか？
研究者の１人である韓国：高麗大学のソ・ヒョンソク教授は、スマホやインターネットに依存している10代の若者と依存していない10代を比較する研究を行いました。依存症の10代の若者たちは認知行動療法の前後にMRS検査を受けました。[※1]
以前より、脳内のGABAとGlx レベルの不均衡が、うつ病や不安症などの気分障害に関与していることは判明しています。
この研究で注目されていたのは、GABA (抑制性神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸) とGlx（前頭前野領域のグルタミン酸/グルタミン）。スマホ依存の若者とスマホ依存ではない若者のGABAとGlxを比較し、スマホ依存と脳内のGABAとGlx レベルの不均衡を関係性を知ることです。
- GABAは、神経シナプスと相互作用し、脳細胞間のシグナル伝達を遅らせる抑制性神経伝達物質です。
- GABAは、脳内の電気信号伝達を促進する興奮性神経伝達物質であるGlxの効果のバランスをとります。
この研究では、依存症の若者は健康な対照群と比較して、認知行動療法の前に脳の前帯状皮質領域でGlxに対するGABAの比率が高く、Glxに対するGABAの比率が認知と感情の調節に関与していることを発見しました。認知行動療法後、脳内のGlxに対するGABAの比率はほぼ回復しました。
この研究により、スマートフォンやインターネット中毒の若者の前帯状皮質のGABAレベルが、脳の認知や感情処理に関連している可能性があると仮説を立てることができます。つまり、スマホ依存により前帯状皮質のGABAレベルが変化し、うつ病を引き起こすのかという仮説です。この仮説にはさらなる臨床研究が必要です。
ただし、脳の認知や感情処理などに役割を果たすクレアチンは、スマートフォンやインターネット依存症の重症度、不安やうつ病の発症と大きく関連していることはわかっています。
スマホ依存が先か、うつ病が先か
中国の一流工科大学の工学部学部生を対象にした研究では、スマートフォン依存症はうつ病と正の相関があり、睡眠が大きな影響を果たしている結果となりました。睡眠の影響は全体の42.22%を占め、さらに、睡眠潜時、睡眠障害、日中の機能障害は、うつ病とスマートフォン依存症との関係に大きく関与しました。この研究結果は、過度のスマートフォンの使用を減らし、睡眠の質を改善することがうつ病の軽減に役立つことを示唆しています。[※2]
研究の結果より、スマートフォン依存症は人間関係や仕事のパフォーマンスに悪影響を与える可能性があることが考えられます。
まずは、スマホの利用を自分でコントロールし、テクノロジーの使用と現実との間のバランスを取るようにし、スマホ依存症を予防しましょう。しかし、厳しい職場環境の場合は、自分の力だけでスマホの利用やパソコンの利用をコントロールが難しいこともあるでしょう。体を壊す前にデバイスと離れることができないような環境からはどうにか距離を取るようにすることが唯一の解決策かもしれません。
参考
※1 Smartphone addiction creates imbalance in brain｜AAAS
