制御性T細胞から学ぶ、免疫の整え方

今年はインフルエンザの流行が早まっているようで、「免疫力を高めよう」という言葉をよく耳にします。確かに、ウイルスや細菌から身を守るうえで“免疫力を維持する”ことは欠かせません。けれども実は、「免疫力が高すぎる」ことが体の不調を引き起こすこともあるのです。
免疫のバランスを保つうえで注目されているのが、2025年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大阪大学・坂口志文特任教授らの研究によって明らかになった「制御性T細胞(Tレグ)」です。このTレグこそ、免疫の暴走を抑える“ブレーキ役”として私たちの健康を支えている存在なのです。
免疫とは「攻撃」と「防御」のバランスで成り立っている
免疫は、体内に侵入してきたウイルスや細菌などの異物を攻撃して体を守る働きをもっています。しかし、免疫が過剰に反応すると、敵ではない自分の細胞まで攻撃してしまいます。これがアレルギーや自己免疫疾患の原因と考えられています。たとえば、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギーや、関節リウマチや1型糖尿病などの自己免疫疾患も、免疫が自分自身の細胞を誤って攻撃してしまうことで起こります。一方で、免疫が弱まりすぎると、感染症にかかりやすくなったり、体力の回復が遅くなったりします。
つまり、免疫とは「強ければいい」というものではなく、ちょうどよく働くことが大切なのです。
制御性T細胞(Tレグ)とは?
坂口先生らが発見した「制御性T細胞」は免疫の暴走を防ぐ細胞で、通常の免疫がアクセルだとすれば、Tレグはブレーキ役であることが分かりました。Tレグが適切に働くことで、免疫は安定し、外敵から身を守りつつも過剰な攻撃を防ぐことができるのです。逆にTレグの働きが低下すると、免疫の暴走が起こりやすくなり、慢性的な炎症やアレルギー症状、自己免疫疾患のリスクが高まると考えられています。この働きが研究によって明らかになったため、これからの医療の進歩に大きく役立つと期待されています。
免疫バランスを整えるための過ごし方
免疫の働きをちょうどよく整えるには、Tレグをサポートする生活習慣が欠かせません。
ここでは、日常の中で意識できる3つのポイントをご紹介します。
①腸を整える
免疫の約7割は腸に集まっているといわれています。腸には無数の腸内細菌が存在し、そのバランスが免疫の働きに大きな影響を与えます。腸内の善玉菌が元気だと、Tレグが活性化しやすくなり、腸内の炎症を抑える働きも高まります。
腸を整えるために特に意識したいのは、下記になります。
- 発酵食品(納豆、ヨーグルト、味噌、キムチ など)
- 食物繊維(野菜、豆類、きのこ、海藻 など)
- 水分(1日1.5~2ℓを目安に)
また、近年では「スマート乳酸菌®(乳酸菌LP22A3株など)」という成分が注目されています。研究では、これらの乳酸菌がTレグの働きを促し、腸内の炎症を和らげる可能性が確認されています。毎日の食生活の中で、発酵食品や乳酸菌を意識して取り入れてみましょう。

②ストレスケアと睡眠
ストレスを感じると分泌されるホルモン「コルチゾール」は、免疫バランスを乱す要因のひとつです。ストレスをためないためには、軽い運動や深呼吸、趣味の時間を意識的に取ることが大切です。
また、睡眠中は免疫細胞の修復や再生が活発に行われるため、「質の良い睡眠」を確保することも忘れずに。就寝前のスマホを控える、照明を落としてリラックスする、温かい飲み物をとるなど、小さな工夫でも睡眠の質はぐんと上がります。
③栄養バランスを意識する
特に注目したいのが、抗酸化ビタミンであるビタミンA・C・E。これらは体内の酸化ストレスを抑え、免疫細胞のはたらきを守ります。
さらに、オメガ3脂肪酸(青魚や亜麻仁油などに多い)やビタミンD(魚、きのこ、日光浴)も免疫の調整に深く関わっています。

「毎日完璧に摂らなきゃ」と構えるよりも、ふとした時に「最近野菜が少ないかも」「たんぱく質ばかりに偏ってるな」と気づくことから始めてみましょう。その気づきが、免疫バランスを保つ第一歩になります。
「整った免疫」を目指そう
現代人の多くは、ストレスや不規則な生活、食生活の乱れにより、知らず知らずのうちに免疫のバランスを崩しています。免疫を上げる・下げるという一方向の考え方ではなく、「整える」という視点をもつことが、これからの健康づくりにおいて大切です。
腸を整える食事、心をゆるめる時間、質の良い睡眠、そして栄養のバランス。それらの積み重ねが免疫を整えることにつながり、風邪をひきにくくなるだけでなく、肌の調子が良くなったり、疲れにくくなったりと、毎日のコンディションにも変化が現れるでしょう。