足りていますか?たんぱく質不足が招く身体のトラブル
たんぱく質は、三大栄養素のひとつであり、生きていく上で特に重要な栄養素です。体重の約1/5を占め、臓器・筋肉・皮膚・骨・歯・毛髪・爪など体を構成する要素として非常に重要なものです。それだけでなく、たんぱく質を作る最少成分であるアミノ酸の組み合わせや種類、量などの違いによって形状や働きが異なります。酵素やホルモン、免疫物質としてもさまざまな機能を担っています。体を作るために必要な栄養素で、健康と美の源でもあります。
日本人のたんぱく質摂取についての現状
現代の日本において、たんぱく質の摂取に関して、各年代で様々な問題を抱えています。
- 10代・20代の若い女性の「やせ(BMI18.5未満)」増加
若い女性の痩せに関しては、ダイエット志向が低年齢化しており、美容を意識した「痩せ型志向」の人が増えています。 - 妊娠期の女性のたんぱく質摂取不足による低体重児増加
たんぱく質は胎児の血液や筋肉を形成するために必要な栄養素です。不足すると低出生体重児が生まれるリスクが高くなります。また、低体重のリスクとしては、心血管疾患・脳卒中・糖尿病などの関連性が高いとも言われています。 - たんぱく質摂取不足による肥満割合増加
たんぱく質の摂取が不足することによって、満足感・満腹感が得られず、結果的に脂質や糖質からエネルギーを多く摂ってしまい、肥満につながると考えられています。特に30代以降の男性に当てはまる人が多いようです。 - 高齢者の筋力低下
たんぱく質が不足すると、筋肉量が低下し、筋肉が衰えます。それによる「フレイル」(虚弱)や「サルコペニア」と呼ばれる運動・認知機能が低下した状態の高齢者が近年増加しています。
このように、たんぱく質摂取不足はあらゆる世代にとって重要な健康問題なのです。
たんぱく質が足りないとどうなる?
美容と健康面で、様々なトラブルを引き起こします。
- 痩せにくい体質になる
筋肉の材料となるたんぱく質が減ることにより筋肉量が減少すると、筋肉が脂肪に置き換わって基礎代謝量が減少するため、痩せにくい体になってしまいます。 - むくみ
筋肉をつくるたんぱく質が不足すると、筋肉中に水分が蓄えられず、余分な水分が細胞と細胞の間の間質という場所にたまってしまい、それが「むくみ」を引き起こします。 - 肌や髪のトラブル
肌や髪に存在する成分であるコラーゲンもたんぱく質から構成されており、たんぱく質が不足してしまうと、コラーゲンそのものが減少してしまいます。コラーゲンが減少すると、肌の弾力やみずみずしさが失われ、肌がたるんだり、深いシワが刻まれたり、表面がカサカサに乾いて萎縮が起こり、小ジワが現われたりします。また髪に関しては、ハリやコシが無くなり、枝毛や切れ毛の原因にもなります。 - ホルモンバランスの崩れ
たんぱく質はホルモンを合成する材料であるため、不足するとバランスが崩れてしまいます。 - 筋力低下
ダイエットや減量で摂取カロリーが必要量に満たないと、体に必要なエネルギーが不足してしまいます。体内に入るエネルギーが減少すると、筋肉が分解され、その分解したエネルギーで必要なエネルギーを作り出します。必要なエネルギーを補給しないまま生活していると、エネルギー源を筋肉に頼る事になり、筋肉が分解され、筋力低下を引き起こす可能性があります。 - 貧血
たんぱく質は赤血球中のヘモグロビンの材料となる栄養素です。ヘモグロビン値が低くなるとヘモグロビンの全身に酸素を行きわたらせる働きが弱まってしまいます。
また、肉や魚などの動物性食品に含まれる、良質たんぱく質は体内に吸収しにくい非ヘム鉄の吸収を高めます。 - 免疫低下
体に入ってきたウイルスや細菌は体の中にある抗体によって排除されます。この抗体の主成分はたんぱく質であるため、不足すると免疫力が低下してしまいます。 - 集中力・思考力の低下
意欲を作ったり、感じたりする「ドーパミン」や気持ちをリラックスさせる「セロトニン」などの神経伝達物質はアミノ酸からできています。そのためたんぱく質が不足すると、神経伝達物質が脳内で普段のように作られず、知らず知らずのうちに思考力や集中力が低下している可能性があります。
たんぱく質の必要摂取量は?
2020年度版の「たんぱく質食事摂取基準」に各年齢・性別ごとに基準となる摂取量が示されています。個人が目指す摂取量は、「推奨量」(または「目安量」)で、成人男性では65g、成人女性では50gとなっています。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
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年齢(歳) | 推定平均必要量 | 推奨量 | 目標量※1 | 推定平均必要量 | 推奨量 | 目標量※1 |
18~49 | 50 | 65 | 13~20 | 40 | 50 | 13~20 |
50~64 | 50 | 65 | 14~20 | 40 | 50 | 14~20 |
65以上※2 | 50 | 60 | 15~20 | 40 | 50 | 15~20 |
※1:範囲に関しては、おおむねの値を示したものであり、弾力的に運用すること。
※2:65歳以上の高齢者について、フレイル予防を目的とした量を定めることは難しいが、身長・体重が参照体位に比べて小さい者や、特に75歳以上であって加齢に伴い身体活動量が大きく低下した者など、必要エネルギー摂取量が低い者では、下限が推奨量を下回る場合があり得る。この場合でも、下限は推奨量以上とすることが望ましい。
推定平均必要量…ある集団に属する50%が必要量を満たす(同時に50%の人が必要量を満たさない)と推定される1日の摂取量
推奨量…ある集団に属するほとんどの人(97~98%)が充足している1日の摂取量
目安量…特定の集団における、ある一定の栄養状態を維持するのに十分な量、十分な科学的根拠が得られず「推定平均必要量」が算定できない場合に算定されます。
たんぱく質が含まれている食材は?
1日の必要量が65g、50g、と言われてもイメージがつきにくいかと思いますので、具体的に少し紹介したいと思います。
動物性たんぱく質(食品100gあたり)
豚バラ肉(脂身つき・生)13.4 g、豚モモ肉20.5、鶏もも肉(皮なし)18.8、鶏ささみ(生)23.9g、鮭22.5g、サバ19.87g、アジ14.08g、ゆで卵12.9g、牛乳3.3g
植物性たんぱく質(食品100gあたり)
納豆16.5g、絹ごし豆腐5.3g、木綿豆腐6.6g、豆乳3.6g
たんぱく質摂取のポイント
どんな食品から、いつ摂取するかという「種類」と「タイミング」が重要です。まず種類に関しては、先ほどご紹介した、肉類・魚介類・卵・乳製品・豆類があります。1つの種類で摂取量を満たすのではなく、これら5種類を複数種類バランスよく摂取する事が大切です。次にタイミングに関しては、朝食や昼食でしっかりたんぱく質を摂る事がポイントです。朝食でたんぱく質をしっかり摂る事により、体温を上げたり、活発に動く事ができ、体内時計もリセットされるため効果的です。
「必要量摂取する」という事を意識して、朝・昼・晩3食バランスよく食べ、健康的な食生活を心がけましょう。
参考資料
日本食品標準成分表2015年版〈七訂〉
日本人の食事摂取基準(2020年版)