フレイルを予防するための対策方法
身体的な虚脱状態のみならず精神・心理的な虚脱や社会的な虚脱などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味するフレイル。まずはフレイルかどうかというチェック項目を利用して、ご自身の活動状況を把握しておきましょう。その上でフレイルを予防するためにできることに取り組んでいきます。
フレイルのチェックリスト
まだまだフレイルを診断するための統一された基準というものはなく、移動能力、筋力、認知機能、栄養状態、バランス能力、持久力、身体活動性、社会性などの項目から評価する場合が多いです。
Friedらのフレイル評価基準
現在の日本で一般的に用いられている評価基準は、Friedらが提唱した評価方法「Cardiovascular Health Study Index(CHS基準)」です。フレイルになると、身体の縮み、疲れやすさ、活動量の少なさ、動作の緩慢さ、弱々しさが出てくると考えられており、それぞれの要素に対する指標を用いることでフレイルかどうか評価しています。その指標となるのが下記の5点。
- 意図的ではない体重の減少
- 主観的な疲労感の増大
- 日常生活における活動量の低下
- 通常歩行速度の減弱
- 握力の低下
この5つの項目のうち3つ以上の項目に該当した場合をフレイル、1〜2項目に該当した場合をプレ・フレイル、0の場合を健常と定義しました。ただし、この評価基準の場合、精神的な側面や社会的な側面を評価することはできないので、あくまで身体的な側面のみを評価するときに用いられています。
RookWoodらのフレイル評価基準
もう一つの評価基準は、RookWoodらが提唱している「高齢者総合的機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)」です。フレイルは加齢に伴う様々な疾患や生活動作障害などの積み重ねによって生じている、という考え方に基づいて包括的に評価する方法として用いられています。 この指標は日常生活動作の低下や自立性の喪失、死亡などを予測するモデルとしては優れているものの、70項目を評価する必要があるため複雑で実際の現場で用いられることは難しいと考えられています。
国内におけるフレイル評価方法
日本国内でも様々な基準が用いられてきましたが、最近になって厚生労働省の研究班によって日本で妥当と考えられる基準値に修正した日本版CHS基準と、フレイルになりうるリスクが高い高齢者を早期に発見するための基本チェックリストが作成されました。
特に基本チェックリストはこれまで25項目ありましたが、高齢者の負担が大きいということも考えられ、10類型15項目に絞られました。(参考:厚生労働省保険局高齢者医療課)
- 健康状態
- 心の健康状態
- 食習慣
- 口腔機能
- 体重変化
- 運動・転倒
- 認知機能
- 喫煙
- 社会参加
- ソーシャルサポート
これによって身体的側面、精神的側面、社会的側面を簡易的ではありますが総合的に把握することができるようになっています。他にも簡易的な「イレブンチェック」といった方法もありますので、自分にストレスがない範囲で試してみてください。
フレイルを予防するには
フレイルは加齢だけではなく多面的な要因が考えられるので、本人や家族の努力だけではなく社会全体としての取り組みが必要になってきます。ご家庭で対策できることはやりつつも、国や自治体を利用することでより社会的な関わりも多くなるので活力がみなぎってきます。
栄養面からのアプローチ
フレイルを予防する上で最も大切な要素と言えるのが栄養面ではないでしょうか。食欲の減退や食べる意欲の低下はそのまま体力の低下につながってしまいます。
どんな食べ物を摂るかも大切ですが、それよりもまずはしっかりと噛むことができるか、飲みこむことができるかが大切です。
定期的な歯科検診で歯の健康を守るというのが第一段階。自分の歯でしっかりと噛むことができれば、その分だけ唾液の分泌もしやすくなります。口腔機能と認知症は大きな相関関係があるとも言われていて、しっかりと噛んで食べることは栄養を摂るという面だけではなく認知機能の面においても大切な役割を担っています。
その上で、炭水化物やタンパク質など栄養のバランスのとれた食事を心がけましょう。特にタンパク質は筋肉や骨の元となるため意識して食べていくことをお勧めします。
運動面からのアプローチ
転倒のリスクを減らすためにも、できる運動は少しずつでも行うようにしましょう。ロコモ対策として、イスからの立ち上がりやかかと上げ、その場での足踏みなどが行われていますが、これらの運動はフレイル対策としても有効です。
加齢とともに体もかたくなりやすいので、運動が苦手な方はストレッチをするだけでも効果的です。 もし一人ではなかなか続けることができない、という場合には自治体などで行われている健康体操教室などに参加するのがいいでしょう。
体力のレベルに合わせてできる範囲の運動を教えてくれるので無理なく運動を続けることができます。こういった教室に参加するのは、運動をすることもそうですが人と一緒に運動をするといった社会的な側面もありますのでお勧めです。 動くのが億劫だから、転倒がこわいから、と動かないのはリスクになってしまいます。人間の体は使わなければどんどん衰えていくもの。それは高齢になるほど顕著にあらわれてきますので注意してください。
社会的・精神的な側面
社会から孤立してしまうのがフレイルの入り口になってしまうパターンがとても多いです。人と関わらなくなることで、行動範囲も狭くなり、少しずつ生きる気力も失ってしまうのです。
人それぞれ合う・合わないがありますし一概には言えませんが、ボランティアに参加する、自分の趣味にあったクラブに参加するというのは社会活動の一つの方法と言えます。
それ以外にも健康教室やスポーツクラブに行くというのもいいですよね。ご家族やお友達と定期的に会うというだけでも十分かもしれません。 歳を重ねるごとに人との付き合いが億劫になってくるという声を聞くことはありますが、それでも人と会うことで脳も活性化して元気をもらうことの方が多いのではないでしょうか。
フレイルを予防して元気な社会に
まだまだ日本では新しい概念とも言えるフレイル。総人口の25%が65歳以上となり、これからますます高齢化社会になってくると言われています。それぞれの方が自分ごととしてフレイル対策に取り組み、高齢になっても元気で生活できるようになれば日本も元気になっていきます。 自分の歯や体の健康を守るためにできること、社会とどうやって関わっていくか、など今からできることに少しずつ取り組んでいきましょうね。