血管の不安定化のシグナル「EndoMT」とは。私たちはEndoMTを阻止できるのか?
2024年10月にTie2・リンパ・血管研究会による第10回の学術集会が開催されました。その中で「これまでの10年、これからの10年」をテーマに毛細血管、リンパ管の重要性についての研究発表が行われました。
血管の内皮細胞で起こる「EndoMT」という現象は、癌が進行する過程や加齢で見られるため注目されるとともに解明が急がれていました。
がんの微小環境での「EndoMT」、加齢や生活習慣で起こる「EndoMT」を阻害する植物エキスについて紹介します。
癌の進行過程で見られる「EndoMT」のメカニズム
EndoMTがどのような現象かというと、内皮細胞が間葉系細胞に変化すること。
内皮細胞とは血管とリンパ管の内側にある単層で、血管壁の最も内側の層を形成する細胞です。この内皮細胞は、酸素や栄養素、老廃物を血液と組織間で交換や血管の修復や新しい血管の形成など重要な役割を果たします。
間葉系細胞とは中胚葉由来の組織である骨や軟骨、血管、心筋細胞に分化できる能力をもつ細胞で、再生医療の分野で注目されています。一方で、間葉系細胞が癌の微小環境で活性化されると、腫瘍の血管新生を助けてしまい、腫瘍が成長し、癌の進行が促進されることがわかっています。
EndoMTを誘発するTGF-βの存在
東京科学大学 病態生化学分野 渡部徹郎先生は、細胞の働きを調節するタンパク質の一種であるTGF-β(トランスフォーミング増殖因子-β)によって、さまざまな種類の内皮細胞が間葉系細胞へ分化することを報告されており、
「TGF-βが加齢で増え、EndoMTを誘導し、間葉系細胞が上昇する」と加齢の影響も明らかにしたことを説明されました。
また、血管内皮細胞由来のTGF-β2は、がん細胞のEMT(上皮間葉移行)を誘導することにより、がんの悪性化を進行させます。すなわちEMTとは、皮膚や粘膜などの上皮組織を形成する細胞である上皮細胞が間葉系細胞に変化することです。
EndoMTは内皮細胞が間葉系細胞に変化するのに対して、EMTは上皮細胞が間葉系細胞に変化することです。
EndoMTの中間段階に着目して発見した防波堤となりうるマーカー
最近の研究では、渡部徹郎先生はマーカーを特定することが大事だと考えて、EndoMTの中間段階の「Partial EndoMT」にも注目が及んでいます。
研究の結果、体内の免疫反応や炎症を調整する重要な細胞膜タンパク質であるCD40がPartial EndoMTにおいて特異的マーカーであることを見出しました。
「Partial EndoMT でCD40が増える、Full EndoMTへの防波堤としてCD40が増えているのではないか」と渡部先生。
がん微小環境におけるPartial EndoMT段階について最近行われた研究結果から新たな治療法の開発への応用が期待されます。
加齢や生活習慣からも起こる血管の機能低下への新たなアプローチとして「EndoMTの阻害」
がんの微小環境だけでなく、加齢や生活習慣からも起こる血管の機能低下においても「EndoMT」に注目されています。
加齢や生活習慣の乱れ、炎症によって血管内皮細胞と壁細胞間結合、血管内皮細胞同士の結合が弱くなります。血管構造が不安定となることにより、酸素や栄養素の運搬が正常に機能しなくなります。
Tie2受容体を活性化することで、内皮細胞と壁細胞の接着が誘導され、血管構造が安定化することがわかっています。このTie2受容体を活性化する素材としてはヒハツエキスが知られています。
全薬販売株式会社では、Tie2活性化素材以外での毛細血管の安定化へのアプローチとして抗炎症素材によるEndoMTの阻害を研究されています。
EndoMTの阻害にイチョウ葉エキス、クルクミン、ヒハツエキスが寄与していることが推察され、Tie2 活性化作用と EndoMT 阻害作用(抗炎症作用)を組み合わせることで毛細血管の構造を維持することが有効と考えられています。
「さらに糖化についても調べました。毛細血管のゴースト化と糖化は弱いながら相関が見られました」と全薬販売株式会社 桜庭大樹さん。
これにより、Tie2 活性化だけでなく、糖化や抗炎症を組み合わせた商品開発にも期待が持たれています。