自給自足は可能?現役ファーマーが教える必要な農地面積シミュレーション

「日本で自給自足はできるの?」――そんな疑問に、現役ファーマーの視点から答えます。米(主食)と野菜を自分で育てるには、どのくらいの農地が必要なのか。初心者でもイメージしやすいように、シミュレーション形式で解説します。
自給自足の範囲をどう考える?
自給自足とは、生活に必要な食料を自分の手で育ててまかなうこと。ただし、その範囲には幅があります。
- 完全自給:米、野菜、肉、魚まで含めてすべてを自給
- 部分自給:米や野菜など一部を自給
この記事では「米(主食)」と「野菜」に限定し、必要な農地面積をシミュレーションしていきます。
米に必要な面積はどれくらい?
日本の稲作は効率的で、平均収量は 1ヘクタール(10,000㎡)あたり約6.8トンです[※1]。
日本人の米の年間消費量は、1人あたり 約60kg(精米ベース)と言われています。
1人あたりの米の年間消費量に必要な面積を計算すると、
60kg ÷ 6,800kg × 10,000㎡ ≒ 約88㎡
つまり、1人あたり約90㎡の水田があれば1年分の米をまかなえることになります。ただし実際は天候や病害虫の影響を考慮し、100㎡前後が現実的な目安です。
今回は、キリが良い100㎡を採用します。
野菜に必要な面積は?
野菜は種類ごとに必要面積が大きく異なります。
- 葉物野菜(レタスやほうれん草)は省スペース
- 根菜やキャベツなどは広い畑が必要
厚生労働省は「成人1人あたり1日350gの野菜摂取」を推奨しています[※2]。
これを1年間に換算すると 約128kg になります。
100㎡あたりの平均収量から計算すると、1人分の年間野菜をまかなうには約107㎡の畑が必要です。
さらに、同じ畑を二毛作で活用すれば 約54㎡ でも可能とされています。
つまり、1人あたり 約50〜110㎡の畑があれば、野菜を十分に自給できることになりますが、今回はこの間をとって、80㎡を採用します。
米+野菜を合わせると?
ここまでのシミュレーションをまとめると、1人分では下記の面積が必要になります。
- 米:100㎡
- 野菜:80㎡
- 米+野菜 = 1人あたり約180㎡
4人家族なら 720㎡(7.2アール) で、主食の米と野菜をほぼ自給できます。これはサッカーコートの10分の1ほどの広さです。
自給を実現する上でのメリット
1. 安心な食
農薬や肥料をどの程度使うかを自分で決められるため、食への安心感があります。
2. 食費の削減
米と野菜が自給できれば、1人あたり年間10万円近い食費の削減につながります(米60kg×800円/kg、野菜平均2,000円/月換算)。
3. ライフスタイルの変化
「旬」を意識した食生活になることで、栄養バランスや健康にもよい影響を与えます。
自給の注意点
ただし、面積があれば必ず自給できるわけではありません。
- 適地適作:その土地の気候にあった作物を選ぶことが必要
- 労力:草取り、水管理、収穫などに多くの時間が必要
- 栽培技術:米作りは50以上の工程があると言われるほど複雑
- 気候リスク:台風や長雨で一気に収穫が減る可能性
- 保存:冷蔵庫や貯蔵庫など保存設備も不可欠
まずは小さく始めよう
いきなり完全自給を目指すのは非現実的。小さな一歩からスタートするのがポイントです。
1. 家庭菜園から
ベランダや市民農園で20㎡程度の野菜栽培に挑戦
2. レンタル田んぼを活用
春の田植えと秋の収穫体験を通して、自分の米を確保
3. 段階的に広げる
本格的に取り組むなら500㎡前後の農地を目標に
「まずは野菜の自給率50%」など、無理のない目標設定がおすすめです。都市部なら「レンタル農園」や「体験型農業サービス」を活用すると現実的に始められます。
日本で自給自足を実現するには、1人あたり約180㎡の農地が目安。4人家族ならサッカーコートの10分の1ほどの広さで、米と野菜を自給できます。ただし、土地や労力、保存設備、気候リスクなど、面積以外の課題も多くあります。まずは小さな畑から挑戦し、ライフスタイルに合わせて段階的に広げていくのが、現実的で持続可能な自給自足の第一歩です。
参考文献
※1Japan Rice Area, Yield and Production
※2健康日本21アクション支援システム Webサイト|厚生労働省