COVID-19とゴースト血管〜後編〜
前編では、新型コロナウイルスに感染し重症化するケースは、血管内皮細胞が感染し、血管炎を起こす。さらに血管が傷つくことで血栓が作られ、その血栓がさまざまな臓器に広がり、臓器障害を起こすのではないかと考えられていると伝えた。
新型コロナウイルスは、特に高齢化や糖尿病など弱っている血管を見つけ、侵入してくる可能性がある。「Tie2・リンパ・血管研究会 第6回学術集会」で高倉伸幸先生は、”劣悪な生活による血管のゴースト化を防ぐこと・改善することがコロナの予防につながる”と解説した。後編では、具体的に弱った血管と免疫力の関係を中心に高倉伸幸先生の解説を交えて紹介していきたい。
弱った毛細血管はどうやって作られる?
血管は「動脈/静脈」「細静脈」「毛細血管」の3つがある。
- 動脈/静脈(細静脈以外)は血液の運搬のため導管。
- 細静脈は白血球を組織に運搬する血管。
- 毛細血管は酸素や薬を運搬、あるいは老廃物を回収するような働きを行っている機能的な血管。
血管透過性は、動脈/静脈ではなく、細静脈や毛細血管で起きる。血管透過性とは、簡単に言うと、血管と血管の細胞の間の隙間が広がってしまうこと。どんどん進んでしまうことを、血管透過性の亢進と言い、血管を通っている水が抜けてしまうようになる。つまり、タンパク質などの栄養も薬の成分も水と一緒に血管外へ漏れていってしまい、その先には栄養などが行き渡らない状態になる。さらに漏れた水分により、むくみがきたり、肺に水が貯まったり、腹水が貯まったりするようになる。
血管透過性には、VEGF(ブイイージーエフ:vascular endothelial growth factor)と呼ばれる血管内皮細胞増殖因子(けっかんないひさいぼうぞうしょくいんし)が関係している。VEGFは血管新生の誘導因子と知られ、新しい血管を作る役割をしていると言われている。
血管のゴースト化が進むと、組織内は低酸素となり、低酸素になってしまった組織からVEGFが分泌される。簡単に言えば、新しい血管を作るようにVEGFが分泌される。VEGFは血管内皮細胞の増殖も誘導するが、血管内皮細胞の間の隙間も広げてしまう。
「VEGFが過剰になると、血管内皮細胞間にますます隙間が生じます。そのために、酸素や薬剤が届かなくなっていきます。酸素は運ばれるが行き渡らない→低酸素になる→VEGFが血管を作るけど未熟な血管しかできない→酸素や栄養が入らない悪循環が続いてしまう。このような血管をお持ちの方がコロナウイルスに感染すると、アビガンなど薬を投与してもなかなか効かないために重症化をしていく。」(高倉先生)
弱った血管からは栄養や薬が行き渡らないだけでなく、免疫細胞の機能低下も
加齢により細静脈レベルでもペリサイトの剥脱は起き、免疫力が下がってくる。「Tie2・リンパ・血管研究会」としては、免疫力を向上させるためにもTie2の活性化を重要と捉えている。
血管壁細胞(ペリサイト)が比較的に高密度で密着しているのが細静脈。異物の混入により、細静脈から免疫細胞が血管外に浸潤し、異物に対して抵抗する。しかし、血管壁細胞(ペリサイト)の脱落により、免疫細胞浸潤が抑制され免疫機能が低下することがわかっている。
「細静脈の構造がしっかりしていないとしっかり免疫が働かないということになります。」(高倉先生)
細静脈や毛細血管でのペリサイトの脱落を招いている大きな要因としては、高血糖や運動不足、ストレス(緊張状態の継続)などが挙げられる。
「高血糖や高脂血症は直接的に血管内皮細胞に対して悪影響を与え、活性酸素を誘導してしまいます。あるいは糖とタンパク質が結合したものが加熱を受けるとAGE(おこげ)ができ、こちらも活性酸素を誘導し、ペリサイトの変性が起きてしまいます。このようなことから、特に食事には注意が必要です。」(高倉先生)
運動不足で血流が悪くなると血管内皮細胞にも悪影響を与えることになる。血流は内皮細胞同志の接着を誘導しているので血流が悪くなると、接着が弱くなり、ゴースト血管化しやすくなる。
また、緊張状態が続くと筋性動脈が萎縮し、血流が悪くなる。リラックスや睡眠も血流を良くする上で非常に大事になってくる。
Tie2受容体活性化とコロナウイルス感染予防
ここまで、血管が弱くなるメカニズム、ペイサイトの脱落により弱った血管で起きる免疫力の低下について紹介してきた。
ゴースト血管を修復し、免疫力を高めるには何が大切なのだろうか。高倉先生はTie2受容体の活性化がキーになると考えていると言う。
Tie2受容体は血管内皮細胞の基底膜側にも発現している受容体で、血管壁細胞(ペイサイト)が分泌するアンジオポエチン-1から活性化を受けると、血管内皮細胞同士の接着が誘導され、血管壁細胞と内皮細胞の接着による血管構造の安定化の引きがねになる。つまり、Tie2受容体の活性化がペリサイトの脱落により弱った血管の安定化につながる。
また、高倉先生は、コロナ以外の感染症において基礎研究の結果も紹介した。Tie2受容体の活性化が強いマウスほどエボラ出血熱やテング出血熱感染の抑制がみられたと話す。
Tie2受容体を活性化するアンジオポエチン-1そのものは、工業的に生産することが難しい物質である。天然物でTie2受容体を活性化することのできるものを日頃から摂取することを提唱していきたいと高倉先生は話す。
研究会ではヒハツを始め、シナモンなどの植物由来の素材でTie2を活性化して、ウイルス感染の重症化をなんとか抑制できないかと考えている。
「バランスの良い食事をとり、生活習慣を見直すこと」「運動して血流を良くすること」「よく寝て、リラックスをする」ということはもちろん重要である。
それに加えて、「毛細血管や細静脈の維持に効果が期待できる食材(ヒハツやシナモンなど)をとることも重要である」と高倉先生は最後にまとめた。
ゴースト血管をつくらない33のメソッド
出版社 : 毎日新聞出版
>高倉伸幸(たかくら・のぶゆき)
1962(昭和37)年生まれ。大阪大学微生物病研究所情報伝達分野教授。1988(昭和63)年三重大学医学部卒。5年間血液内科医として臨床に従事。その後、画期的ながん治療薬および組織再生療法の開発をめざして基礎研究に入る。1997(平成9)年京都大学大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。熊本大学医学部にて助手~助教授を経て、2001(平成13)年~2006(平成18)年まで金沢大学がん研究所教授。2006(平成18)年より現職。日本血管生物医学会理事(2014~2018年・理事長)、大阪大学大学院医学系研究科・組織再構築学講座、金沢大学がん進展制御研究所客員教授を兼ねる。組織再生やがん組織における血管研究において新しい解析結果を次々発表・報告するこの分野のトップランナーの一人。2018(平成30)年 に「NHKスペシャル」「あさイチ」に出演。ゴースト血管に警鐘を鳴らし、話題を呼んだ。ゴースト血管という言葉の命名者でもある。