「毛細血管とフレイル対策」をテーマに Tie2・リンパ・血管研究会が学術集会を開催

毛細血管やリンパ管の維持・正常化に重要な役割を果たす受容体「Tie2」の研究と普及に取り組む Tie2・リンパ・血管研究会は、2025年10月23日、川崎市の Shimadzu Tokyo Innovation Plaza にて第11回学術集会を開催した。「毛細血管とフレイル対策」をテーマに掲げた本会では、髙倉伸幸会長(大阪大学)をはじめとする専門家が登壇し、最新の医療研究から食品成分を通じた機能性研究まで、多角的な視点から毛細血管の健康維持の重要性が議論された。
癌で衰える骨格筋は血管機能の低下で起こる?!
髙倉伸幸会長は、サルコペニアと毛細血管の関係に着目し、Tie2の活性化により血管内皮細胞から分泌されるapelinと、血管内皮細胞に発現する受容体がサルコペニアに関わることを見出したと報告した。
さらに、近年注目される「がんに伴う筋肉量の大幅な減少」について、血管機能の低下が原因ではないかという新たな視点を紹介。がん患者でみられる大幅な筋肉量の減少に対し、血管機能の障害が発症メカニズムに深く関わる可能性が指摘されている。2025年に Nature Cancerに発表された Kim YM らの研究では、骨格筋の内皮機能不全が筋力低下を誘発することが明らかにされた。

加齢による内皮細胞の機能変容は中年層で個人差あり
血管は本来、血液が漏れないよう「内皮細胞同士の接着」によりバリアを形成している。感染症や炎症ではこのバリア機能が破綻し、血管透過性が亢進。
日本医科大学 先端医学研究所 病態解析学部門 福原茂朋教授は、若年から高齢のマウスの肺の毛細血管内皮細胞の解析を行った。その結果、肺胞血管バリア機能の維持に必須であるRap1遺伝子が加齢に伴い減少することがわかった。
さらに、加齢による内皮細胞の機能変容と個体老化の関連についても着目し、「中年層は個体によって違う」と中年層での個人差を示した。
中年層で内皮細胞の老化度に個人差が生じやすいことが示されたことから、40〜50代の段階で生活習慣を整え、血管の健康を守ることの重要性が改めて浮き彫りとなった。
ヒハツ由来成分「ピペリン」は血圧高めの方の血圧や血管の柔軟性を改善
血管は、全身に酸素や栄養を届ける重要な役割を持つが、加齢や生活習慣により血管内皮機能が低下しやすい。特に、野菜不足で脂質過多な食生活や運動不足は血管への負担を増大させるため、血管の健康維持は現代社会においてますます重要となっている。
大正製薬株式会社 セルフメディケーション臨床開発 室賀翔太さんからは、血管からはじめるセルフメディケーションと題したテーマでヒハツ由来成分「ピペリン」の血管機能への作用が報告された。血管内皮細胞を用いた実験により、ピペリンによって血管弛緩因子である NO の産生が増加したことから、ピペリンが血管内皮細胞を介した血管弛緩作用を示すことが示唆された。

また、臨床試験では血圧が高めの被験者に1日1回ピペリン90μgを12週間にわたって摂取してもらった。結果は、摂取1週間後から 血圧低下が観察され、血管の柔軟性の指標であるFMD(血流依存性血管拡張反応:Flow-Mediated Dilation)が改善した。ピペリンは血管機能を維持・改善に有効である可能性が高いことが示された。
今回の学術集会では、サルコペニアやがんに伴う筋力低下に血管機能が深く関わること、中年層血管内皮細胞機能に大きな個体差があること、さらに食品成分による血管機能改善効果など、血管研究の進展が示された。
特に中年期の血管状態が将来の筋力や健康寿命を左右する可能性があり、日常的なケアの必要性が浮き彫りにった。